『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』
第794回無声映画鑑賞会
[ロイド!ロイド!! ロイド!!! ]
2024年9月25日(水曜)午後6時開演
北とぴあ ドームホール
東京都北区王子1-11-1
上映作品
『豪勇ロイド』
1922年 米 パテー作品 (たぶん最長版 詳細は、マツダ映画社の情報をご確認ください)
出演/ハロルド・ロイド、ミルドレッド・デイヴィス
弁士/澤登 翠
『ロイドの初恋』
1924年 米 ハロルド・ロイド㏇=パテー作品 (60分)
出演/ハロルド・ロイド、ジョビナ・ラルストン
弁士/山崎バニラ
『ロイドの海賊退治』
1919年 米 ロリン・フィルム作品 (17分)
出演/ハロルド・ロイド、ビーブ・ダニエルズ、スナップ・ポラード
弁士/尾田直彪
シンセサイザー演奏/坂本 真理
料金/一般2000円 ほか 予約、詳細
無声映画は無音だよ!
まず、最初に「無声映画」って?ということから触れさせていただくと、別の言い方では「サイレント映画」とも呼ばれるように、昔、昔の映画の創世記は、映像はモノクロだったばかりではなく、音もありませんでした。欧米では、ピアノや楽団の生演奏が添えられ、「落語」「講談」など「話芸」の文化が多様であった日本では独自に「活動写真弁士」という説明の職業が生まれ、今ではそれが世界で唯一の「カツベン!」という表現スタイルで注目されています。
楽士の職人技
日本でも、欧米と同様に音楽生演奏のみで上映をすることもあれば、音楽は「サウンド盤」として、フィルムに焼き付けて「カツベン」のみをライブで語るパフォーマンスもあります。私は、無声映画は、2016年に「月世界旅行」をシンセ弾き語り演奏でデビューをさせていただいて以来、何回かは演奏のみなのですが、のべ129作品に関わったうち、ほとんどは「カツベン」の伴奏をさせていただく「楽士」という肩書きで、出演させていただいています。シンセなので、ピストルや大砲の発砲音、効果音SEなども鍵盤にアサイン(入力)し、生演奏として、当日の弁士の意気込み、タイミングにあわせて音出しをしています。よく、効果音だけは、フィルムについているのか?と思ってくださる方がいるのですが、ぴったりに効果音がだせるように、稽古時も大きなスクリーンで練習を重ねています。
楽譜なしの即興演奏なので、いくら稽古をしたところで、当日の弁士のニュアンスにあわせるので、関係ないと思われるかもしれないのですが、当日の合計演奏時間はたいて3時間ほどなので、それ用の筋トレをする気持ちで臨んでいます。
元幼稚園園長 現在は拠点の「むらさきmusicラボ」で、リトミック、保育、楽器づくりなどの教育活動を中心に活動をしている私のプロフィールはこちら。
これまでに関わった無声映画のアーカイブはこちら。
『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』????
喜劇映画での楽士の注意事項
ココ何年か連続で、毎年1回、「ニコニコ大会」という番組に出演させていただいています。「キートン、ロイド、チャップリンほか」といったアメリカ喜劇(ほぼ1920代の作品)ばかりを3作品をくらい続けて「笑ってお楽しみください」という趣旨のものです。
他の喜劇映画主演役者のものもありますが、例えば「キートン、ロイド、チャップリン」だとすると、弁士は、それぞれ入れ替わりなのですが、楽士はそのまま3作品を弾き続けます。私は、楽譜が苦手で即興で弾くタイプなので、楽譜はなしですが、楽譜ありでもなしでも同様に、弁士の言葉の背景を彩る気持ちで、その時代らしい音楽での情景を表現することが、一番大切なことだと思っています。
「音楽は自由」なイメージがありますが、一方で、「四拍子が生まれたのは」音楽史的には近代なので、欧米の中世の宮殿風景などでは不向きとなるし、舞曲シーンでは、リズムと速度が定められているため、私は振り付けから予測をつけた上で、YouTube で確認をしたり、詳しい人にお伺いをたてています。
そのほか、キリスト教関係ではたくさんの音楽のきまりがあります。教会オルガンのコラールは、終わり方は音を伸ばす・・・etc。いろいろな約束事が、西洋音楽においては日本の神社の敷居を踏んではいけない的な感じでいろいろあるものです。
喜劇を音楽で表現する場合、私が一番大切にしているのは、「スラップスティック」(小突いたり蹴ったりする現実ではありえないドタバタしたコメディの表現方法)と通常のストーリーテーリング時には音楽をチェンジすることです。ドタバタ中にうけた暴力、ダメージ(撮影当時と現代では受け止め方が異なる)が物語進行上とは関係はなく、死ぬこともないし、怪我の手当のシーンにつながることも私が経験した中ではありませんでした。
「そして、⚪︎⚪︎一行は、▲▲に向かった」というようなシーンでは、目的地、移動方法、乗り物のスピードなどを表現するような劇伴的な表現。
対して、突如始まる「ドタバタ、スラップスティック」では、往年のドリフターズ「8時だよ!全員集合!」の舞台転換時の音楽のような「非常事態」「非日常」、状況によっては「CM感」が必要な場合と感じた場合には、職人技で仕上げていきます。
重複をさける作戦、計画
アメリカを舞台としていて、同じ年代のものが重なっている場合、著作権がパブリックドメインになっている既存の曲は、上手に使い回すという職人技が発揮されます。
私は、前職が幼稚園園長なので、シフト作成が得意!自分が弾けるモチーフを人材に見立てて、いつもこのような「登板表」をカラフルな視覚重視でつくっています。
スラップスティック表現で自分が弾きやすい慣れたモチーフの分割さえできれば、「チャップリンらしく」など、主演俳優のカラーにあわせて、作品ごとのキャラクターは、弾きわけるのは、そんなに困難なことではなくなってきました。
全部ロイドな『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』
そんななか、2024年は、すでに「ニコニコ大会」も終わったので、次は邦画かなぁ〜、歴史スペクタルかなぁ〜とオファーを待っていたら、全編がハロルド・ロイド主演ということ。
頭の中で、『メガネ!メガネ!! メガネ!!!』が、渦巻きました。
実は、私は2024年の8月 こども映画館 2024年の夏休み★ で前作は、同じアメリカものですが、西部劇、ちょっとしたおとぼけがある紀行スペクタクルという感じの作品で、音楽的には、舞曲(カントリーダンス)、黒人霊歌、フォスターなど、開拓民の音楽をたくさん採取して臨みました。アパラチア山脈を越えた「カントリー音楽」の世界も、堪能させていただきました。
さて。重複をさけて、一作品ごと、お客様にはフレッシュな気持ちで鑑賞していただけるような確認作業のフォーマットをあらかじめ作っておいて、あとは、作品を見ながら自分ルーティンでの音楽制作作業の開始となります。
アメリカ音楽 シンプルがベスト!
私は家庭環境で東京・基地の街「立川」のカトリック教会に属し、小学生の頃から、オルガン演奏奉仕をしていたので、かつての「米軍立川基地」でもたびたびオルガンを弾いたり、米国軍人司祭司式ミサでも伴奏をしたり、信者として、「ゴスペルミサ」に参列など、脳が柔軟な時期での「アメリカ」の音体験があります。
母が指揮をする聖歌隊のお供で、ガーデンパーティや、ミニ運動会にも参加していたのですが、今から考えれば、どんな時でも生演奏がありました。なにか「Yeah~!」みたいな盛り上がりがあるところには、そんな音楽が添えられていた。それが小学生時代の私のアメリカ体験です。
今でも一般的にアメリカ音楽の使用コードは少なく、単純でシンプル。和声で言えば、「I度 V度」で完結。そして、ちょっとブルージーに、「Yeah〜〜〜〜〜〜」と、ロングトーンでのフェイクで余韻を引っ張って、みんなでハモる。日本の以心伝心とは真逆の「誰でもわかる」的な仕組みがあると感じています。
盆踊りで「ボン・ジョビ」をかけて盛り上がるというのを知って、これも「シンプル」なコードが国を越えて愛されているんだなぁ〜と感じます。洋楽には、Aメロ、Bメロ、サビという構成がないくらいシンプルなものもありますよね。
こどもを連れて、フロリダのWalt Disney World に行った時(8回渡米経験があるうち2回はWDW)は、まだ無声映画で楽士デビューをするなんて夢にも思っていなかったので、次に機会があれば、しっかりと映画に役立つ音楽を耳採集したいなぁ。1920年代の音楽は基本的には、著作権外だから、いろいろ見聞きできそうだなぁ〜。
シンプルさには理由がある。
私の体験した「ゴスペルミサ」の印象は、ピアノ、オルガン、ドラム、ギターなんでもいっぱいの編成。マイクもびっしり立っている。
司祭の説教でちょっといい感じに盛り上がると、
「YES!」をみんなで言い合うような箇所があって、「え〜〜め〜〜ん(アーメン)」のフレーズをみんなで歌う。
基地には、様々な出身者がいるから、このようなシンプルさが重要なんだ!ということが、『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』の『ロイドの海賊退治』にでてくる「カリプソ」の振り付けと思われる女海賊たちのダンスシーンをみて、何十年かをへて、理解できました。
トピック:カリプソ!みんなおそろいの身振りでもりあがろう/ 『ロイドの海賊退治』
本作の中には、「カリプソ」を示す文言はないのですが、ジャンピングライン的な振り付けと2拍子と思われる動き、ウクレレの弾き方で判断をしています。
「カリプソ」は、アフリカの様々な地域から連れて来られた黒人の人たちが、身振り手振りで伝達をしようとしたことが振り付けに取り入れられたダンス音楽だそう。本作の舞台はスペイン領カナリア諸島なので、本来は「カリプソ」のルーツではないけれど、私の知人でカナリア諸島に長く住んでいた人の話では、「ハワイ」のような欧米人にとっての「憧れリゾート」なので、さまざまな地域から旅行者やそれをもてなす仕事の人たちが集まっているタウンだそう。だとしたら、当時の流行りを「男はつらいよ!」的に映画に挿入していたのかもしれないなぁ〜と、思いました。「カリプソ」は、後に戦後、Harry Belafonteがヒットを飛ばしています。上映中は、著作権にひっかからないように、メロディを替えてかつ、20世紀初頭風に演奏しています。
今番組への私的な意気込みは「シンプル」
「シンプル」にしないと伝わらないこと。『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』の音楽制作を開始するにあたり、同じ顔の主人公の作品を連続して上映するので、作品ごとにキャラクターを提示するのには、「シンプル」でなければいけない!と、最初に意気込んだのでした。
なぜなら、3作品は、どれも生き様や性格、バッググラウンドの多様性に翻弄される「主人公ロイド」というのは共通しているように思えたからです。
まり先生の採集活動
シンセサイザーによる生演奏の準備には、音色を組んでシンセにアサイン(入力)し、フェイバリットボタンで瞬時に呼び出せるようにする。銃声とピアノなど、二つの音色を割り当てる場合には、右手と左手の境界線を自分で決めて割り当てるなど、ちょっと多めの工程があります。
シンセなので、サンプリング機能を使えば、どんなSEでも使える技術はあるのですが、サンプリングを呼び出すウィンドウ操作の関係で、私はサンプリングは使用していません。JUNO-DSにもともとある犬や銃声は、そのまま鍵盤にあてがってはいるものの、猫などは、弁士さんと相談していますし、その他は、ピアノと同様に音楽で表現する手段を探していきます。
トピック:アメ車のクラクション/ 『ロイドの初恋』
日本の道路事情だと想像しづらいですが、当時のアメ車には、わざわざそれ用にラッパのようなホーンが複数ついて、ちゃんと和音の音が出るクラクションがあったみたいです。
G・ガーシュイン「パリのアメリカ人」では、「タクシーホーン」という楽器を使用しているそうです。
さすがにタクシーホーンは買えないので、地道にクラクションの音を耳コピして、鍵盤で弾く作戦とし、参考にしたのが、「ララランド」冒頭シーン。クラクションって、和音になっちゃいけないんだなぁ。ある種、無調音楽なんだなぁ〜と、把握しました。音色は、研究の結果、一番、タクシーホーンに近いアコーディオンのストップ音色を見つけました。
流行りのリズムからわかる時代背景
注:無声映画に音楽をつける役割を担う方は、私のように「楽士」という呼ばれ方を好む方もいる一方、さまざまな肩書きがあります。私は、音大でも教育音楽学科(リトミック専攻)ですし、音楽を教えること(むらさきmusicラボ)を日常の仕事としているので、これから生徒さんに教える可能性をふまえて、無声映画でも、なるべく時代や地域については入念な下調べをするようにしています。立場によって、ご自身のオリジナル曲をたくさん有していたり、独自のスタイルを聴衆に認められていらっしゃる方などもいらっしゃるので、こちらに記しているのは、私個人のスタイルということをご承知おきいただき、是非とも様々な弁士の語り比べとともに、生演奏の聴き比べもお楽しみいただきたいと思います。
アメリカの音楽というと、現代でもブルーズ、ジャズ、ゴスペル、ソウル、ロックンロール、ヒップホップ……とたくさんのリズムが強い音楽が浮かびます。
無声映画で私が使う音楽は、うんと古いとフォックストロット。ちょっと幅広い時代で使わせてもらっているラグタイム。こちらのふたつは、まだリズムのビートは、一定で、シンコペーションは右手のみという感覚で私は弾いています。左手は、スライドピアノ奏法で弾いています。
私の感覚なので、出典はないのですが、その後にチャールストンが大流行。だいたい1920年代。そこに新風として、スウィングがでてきて、リズムは右手も左手も一緒にスウィングしたりシャッフルしたりになります。ただ、あまりリズムを揺らすと弁士さんは説明しづらいので、「ここぞ!」という時にスウィングは使っています。
ビバップ (bebop)は、1940年〜とされているみたいなので、ミュージシャンに、「まりさんは、無声映画でどんな音楽を弾いているんですか?」
と聞かれた場合は、
「作品によって、国、時代にあわせた音楽で、アメリカの作品だったらビバップ前のジャズが多いです」
というと、すごく伝わります。
令和の現代では、いろんな音色のみならず、チューニングまでもが曲によって選べる時代になっているけれど、往年の当時は、楽器の音色、編成には制限があったので、「リズム」で流行りを作り出しんだろうな〜。
でも、今からすれば、リズムとダンスの振り付け、特にチャールストンは「コンテスト」まで開催されていたそうなので、インパクトがあったのでしょう。そのようなリズムの歴史は、昭和歌謡で「マンボ」「ブルース」「サンバ」など、リズムを伴っていない異国情緒にも発展していくのが、味わい深いですね〜。
トピック『フォックストロット』:爺さん執事のお気に入り /『ロイドの海賊退治』
フォックストロットは、1800年代の末に生まれたラグタイムにあわせたダンス音楽のひとつで、1913年にも記録があるそう。私は、リトミックの恩師(中館栄子先生 歴史的舞踏の名手)の関係で、日本女子体育大学で池間 博之先生の集中講座に参加をしたことがあり、中でもフォックストロットは池間先生のパートナーで踊らせていただいたので、大切にしているリズムのひとつ。フォックストロットの楽譜は、1992年ジュネーヴでのリトミック国際大会に参加の際、ダルクローズ音楽院の売店で入手したものを大切に使わせてもらっています。このリズムがあったから、この後のチャールストンなど、スウィング、シャッフル系が生まれてきたのですね〜。本作では、冒頭で爺さん執事が蓄音機をあっけて踊るシーンで振り付けもフォックストロットだったので、ぴったりあわせて弾いています。
ちなみに、今作ではないのですが、前作「幌馬車」での「カントリーダンス」シーンの特定で迷った際、某メストリにお尋ねしたところ、踊りで腕をクロスしているかどうか?も目安になるというお知恵をいただきました。感謝!役立てます!
トピック キャラクターいっぱい Calypso・Habanera/『ロイドの海賊退治』
最初にハマった!と閃いたのが女海賊の皆さんの昭和のタツノコプロアニメのようなメロディテーマ。ここは、もう笑っていただきたいと思いました。そして、ロイドがウクレレをつまびくのは、みんな「一列〜」ということでこれはもう「ジャンピングインザライン」だなぁ〜と思いつつ、まだ著作権範囲内なので、その元歌を想像して、メロディは自作した「カリプソ」のリズムで演奏。それを束ねる女船長は、スペイン沖カナリア諸島ということで、Habaneraのリズム。そのほか、もういろいろ「It’s a Small World」ばりにいろいろ盛り込んでます。中国人コックシーンには、シノワズリーに。ここは、日本からみた「中華風」ではなく、欧米人からみた「中華趣味」というニュアンスを目指しています。船の地下牢に閉じ込められていた別の海賊たちは、「スウィングジャズ」を炸裂って感じで勢いを出しています。
アメリカ音楽 ビートをきざもう!
私の教室(むらさきmusicラボ)の大人の方のレッスンでもよく質問にあがるは「拍子」「ビート」「リズム」のそれぞれ指すことで、それぞれ音にしてピアノで弾くと、膝ポン!と納得していただいています。
拍子:「3拍子」「4拍子」などの1拍目と小節の中の数量との関係性の指揮で表すことができるもの
ビート:鼓動 心臓の動きと思っています。ドラムを言葉で、ズンチャ、ズズチャッ!って感じです。
ビートの種類
2ビート マーチ(行進曲)、ラグタイムなど、無声映画で使うのはほとんどがこれです。
4ビート 4ビートジャズ、カントリーなど 無声映画時代には、まだ存在しないか新しいビートなのでレアです。「キートンの恋愛滑稽三代記」の現代ミュージックホールでのジャズバンドのドラムがブラシを使っていたところなどで使用しました。
〜〜ここから先のリズムは、想像の世界。無声映画の音楽は、1)舞台となる時代、2)制作年、3)観客が生きている時代 と、私の個人的な見解ですが、バランスさえ考えれば、令和の現代で聴かれる往年から継承されているビートも登場させてみようではないか!と、勝手に実行をしています。
8ビート エイトビートは、ビートルズをイメージすると良いかなぁ。ロック、そのほかJ-POPにも使われています。
実は、私は、「無声映画」で「車」を使用するシーンでは、たいてい8ビートにしています。だって、車は「メカニック」だもの。スピードアップをしたり、疾走感は、やはり8ビートだと思うのです。
16ビート 本作では、使っていないのですが、私は、戦争シーンではハチャトリアンの「スパルタカス」を16ビートにして弾くことが多いです。
トピック バタフライ車は8ビートで /『ロイドの初恋』
これは、わかりやすく車の速度がメーターで表示されています。画面の表示にあわせて、ぴったりに減速したり、加速したり。これは、楽士、音楽職人として好きな仕事です。
トピック 車に乗ったら8ビート 降りたらOFF /『豪勇ロイド』
これも腕が鳴る楽しいシーン。後半でロイド自身がハンドルを握るシーンがあるのですが、車から降りる箇所もあります。降りたらOFF。乗ってハンドルを握ったら、8ビートはON。そして、ぬかるみにはまったら減速しぐっちょんぐっちょんでダウンして、お次の乗り物は、なんと「ネコ」(一輪車)。おとぼけシーンにつながります。こういった手法は、ディズニーのアニメでは、よくあるような気がしています。
私のこどもの頃は、毎夕、テレビ東京でハンナ・バーベラ(Hanna-Barbera)アニメが放映されていたので、このような音楽で切り替えをする表現の影響は、ものすごく受けているかもしれませんね。
アメリカンハーモニー
上記でシンプルを指摘したのですが、真逆の複雑な和音もまた、アメリカらしい特徴と私的に思って、オリジナルの用語で「アメリカンハーモニー」と自分メモに記録して制作をしています。バブル世代の私には、「名犬ラッシー」「奥様は魔女」「バイオニックジェミー」「スター・トレック」と茶の間のテレビから流れる番組内の音楽や、多摩地区の実家は、FEN(Far East Network米軍極東放送網)が綺麗に聴けたので番組のジングルなどから耳コピできる心地よいコーラスのハーモニー、オーケストレーションに、セブンス、ナインスでもない、和声上は関係ないような異音が、ものすごく遠縁の倍音のように響く音の効果について、「あ、またあった〜」と確認して、音を覚えてそぉ〜っとピアノ部屋にいって、和音を確認したり、ピアノで適当な和声を右手で弾いて、左手は順番に根音をずらしていくひとり遊びをしていました。
”サーカス”の「アメリカンフィーリング」という曲のアレンジには、まさにこの和声が使われていて、「アメリカン」だなぁ〜と思います。サーカスは4人編成なので音が足りないのですが、アメリカのコーラスグループ”TAKE6”は、10人編成でのコーラスワークなので、たっぷり和声進行が味わえます。”シャーマン兄弟”も、ディズニー作品で使われているオーケストレーションも、いろんな複雑だけれどもゆっくり解決する和声が使われているけれど、↑の動画の「メイム」が私にとっては、最高峰!お手本なので、貼らしていただきます。
和声を構成する一音ごとに、ちゃんとコミュニケーションがあるでしょ〜。昔はビデオとかなかったから、テレビで一度みただけの音をほかの音を聴いてしまわぬうちに、すぐピアノで弾く耳コピをしていました。関係ない音は、7番目でも9番目でもなく、この音もあると「おしゃれでしょ」という位置にあります。楽譜が市販されているのか?わかりませんが、YouTubeにはアメリカのお爺さんたちが、素敵に再現されている動画がいくつかありました。
今は、ラボに耳コピのレッスン目的の人もいてレッスンしているけれど、YouTubeの速度調節を使ってレッスンしてほしいとリクエストがあって、そうしているけれど、ちょっとズルのような気がしているまり先生です。
オーケストレーションで、なんだか「スウィート」で複雑、無駄に音数が多いようなアレンジをなんて呼んだら良いのかわからないので、「アメリカンハーモニー」と名付けて、今作では、ロイドがちょっと頬を赤るようなヒロインを前にした時など、見守り、思いやりなどの心情を表現するときによく使っています。
同様に、同モチーフ内で転調する手法もアメリカ喜劇ではよく使っていて、オリジナル専門用語としては、以下があります。
「ホイットニー転調」(ホイットニー・ヒューストンによくある盛り上がりで半音上へ転調)
「コパカバーナ転調」(私的意味:バニー・マニロウがやりがちな関係性のない部分転調、小室哲哉のマイレボリューションでぞわっとする箇所が転調です)
トピック ハ⚪︎スカレーでも食べに来ないかい?ナイスな隣人/『ロイドの初恋』
アメリカの家には、人目に触れる用の表庭と犬がかけまわるような裏庭があって、「初恋」ロイド宅の表庭も、垣根も塀もなく、隣人たちが自由に出入りをしていますよね。
納車したばかりの写真を撮ってくれたり、人生のアドバイスもしてくれる優しそうな隣のおじさん。歴代のハウスカレーのCMにでてきそうな青々とした緑の芝生の前庭に、「車庫証明ってなに?」みたいにフリーに車が停めてある風景。一見、良さそうだけれども、広いガレージには車検がないので、自己責任で車の点検をする工具がズラリ〜なんだろうな〜。人生の酸いも甘いも嚙み分けたような隣人の深い顔の皺と日焼けした表情に、「コパカバーナ転調」を効かせています。ちょうど、「でもね」という接続詞が入るようなタイミングを狙ってます。
トピック スウィートでとろける和声進行 ヒロイン/『ロイドの初恋』
そもそもヒロインの顔だちが、「スウィート」だと思いました。でも、主人公ロイドと最初に出会った瞬間から甘かったのではなく、出会った瞬間の「どみそみど」エチュードスケールを経て、見つめられると、「ドキューン」と射抜かれ教会の鐘を勝手に鳴らしています。(私が勝手に考えたアイディアで演奏した録音をあらかじめ弁士さんにデータ送付をして、お伺いをたてています。)二人が恋に堕ち手をとりあったポイントから一貫してスウィートな和声進行にしています。
例をあげると、「そどみ」という Cコードを展開させたG/Cコードだったら、スウィート化させると、「どそ そらどみ(ふぁ)そ」くらい盛ってます。
新婚でダーリンに買い物をおねだりするときも和声構成音は盛ってます。
しばらくドタバタしていて、ロイドもそれどころじゃないのですが、
ラストシーンは、再び二人っきりのスウィート和声でジエンドです。
そもそもロイドは、とろけるようなうっとり顔がうまいですよね。
BPM 音楽を決める最も重要要素
無声映画のシーンごとの音楽の付け方ですが、歩いている箇所があれば、私はその速さ(bpm)に合わせます。
洋画の無声映画は、多くが音楽をかけながら撮影しているか?もしくは、ボードヴィル経験者が優れたテンポキープ力をもって演技やパフォーマンスをしているので、歩く速度もかなり均一なことが多いと感じて
います。音楽をかけなが撮影をしていたのは、フィルムを手動で回しながら撮影をするときのガイド役という意図もあるのでしょう。
拍子も一拍めが強拍とみてわかることが多く、ピアノで即興であわせれば、たいてい小節の切れ目も誤差ていどで、フレーズも収まることもあり、そんなときは、「やったー!」と思います。
無声映画全盛期は、とにかく作品を量産しているので、定型を崩したコマ割りはあまりないように感じています。
だからこそ不具合はすぐ感じ取れる分、欠落フィルムがあるシーン、もともとツギハギだらけの作品だと、そこだけ変拍子にしたりと苦労をしています。
邦画に関しては、「アラブ音楽か!」と、心でつっこむくらい拍子が読めないこともあれば、無音を前提と感じる場合もあり、音楽をつけないことも大切と感じています。
トピック 浮浪者のお尻プリプリホールドアップウォーキング/ 『豪遊ロイド』
豪遊ロイドは、山崎バニラさんの弾き語り活弁を何度か拝見して、素晴らしいメッセージを込めた名作ということは、肝に銘じてとりくみました。
キャラクターごとの主題は、私が一番好きなヒトから着手しようと思い、浮浪者の登場シーンを追っていくと、後半で両手ホールドアップをしたままお尻プリプリで可愛く歩くシーンがありました。(このズボンの形がオムツみたいで可愛い❤️洋裁趣味なので自作したい!)
普通のマーチング速度としては、ちょっと遅めと感じて調べてみると現在の吹奏楽では120(BPM)に対し、撮影当時のマーチ速度の定義は、108(BPM)くらい。ちなみに「それいけアンパンマン」の”アンパンマンマーチ”は、100(BPM)でちょうどヒトが話す速度だそう。
とにもかくにも、この人間がコーギー犬のようにプリプリ歩くのに、こんなに一定のテンポをキープできるのは、彼が軍隊経験者なのかもしれませんね。BPMは、ほぼ108みたいです。(アプリ使用)
「浮浪者」メインモチーフのメロディとリズムは、”ボレロ”にしています。ラヴェルの作曲作品が有名ですが、もともとはスペイン、キューバ発祥のリズム名だそうで今作では余所者感を醸し出してます。
BPMは、現在ではスマホで聴いたままタップすると数字が表示される
アプリがあるので、機会があれば「三百六十五歩のマーチ」も試してみようと思う。予想では「アンパンマンのマーチ」と同じ100BPMのような気がするなぁ。
1922制作 豪勇ロイドの主なモチーフ
時代設定〜ナフタリン(防虫剤)や既製品のスーツが普及、アイスづくりの様子から氷も入手可能なくらいの時代
場所〜たぶん、地方都市。南北戦争の回想からケンタッキー州くらいの位置と推測
ロイドの役所:気弱なおばあちゃん子
主人公のテーマモチーフ:オリジナル 風が吹けば飛ぶような軽い人格を表現
悲しい時:ティムバートン的なアルペジオ
調子が良い時マーチ:前に進む感じ
最高潮の時のマーチ:成功、達成感、祝杯
ヒロインのモチーフ:Love You/The Ideal of My Dreams(作品中に冒頭部分の楽譜あり、その後はオリジナル)
グランマのモチーフ:ギリシア風澄み切った青空風/アメリカンシンプルな説得力、ミュージカル風/ラヴェル「マメールロワ 美女と野獣」
敵役:私的いつものライバルモチーフ
浮浪者:108BPM ボレロ
自警団:グリーク:山の魔王、小人の行進
南軍(回想 南北戦争)ディキシー
赤ちゃんロイド:ブラームス:大学祝典序曲
大人ロイドのいっぱいいっぱい:ブラームス:ハンガリー舞曲
マジックアイテムのモチーフ:ティムバートン的なキラキラファンタジー
スラップスティック:チャールストン、ラグタイム、剣闘士の入場
高速表現:車 8ビートJohnny B. Goode風
1924制作『ロイドの初恋』の主なモチーフ
時代設定〜バタフライが新車の時代
場所〜坂道に路面電車がある街の郊外の住宅地
ロイドの役所:車好きの愛妻家
主人公のモチーフ:私的にいつものロイドのテーマ ロイドからはFを感じるのでFコード たぶん、「はふぅ〜」って表情をするから。
ヒロインのモチーフ:アメリカンハーモニー、ウキウキver.はにかみver.警察:ガーシュイン:ラプソディインブルー
交通渋滞時クラクション:タクシーホーン
スラップスティック:韓国ドラマ風モチーフ複数
高速表現:フランスバーレスク風、ディズニーKAT-TUN風
消防馬車:オリジナル。チャップリン、キートンなど作品を越えて大概コレ
義母:同上で爺やなどによく当てているオリジナル
電車の中の正義おじさん:アメリカンパトロール、パブリックドメイン
七面鳥:イーアイイーアイオー
1919制作『ロイドの海賊退治』』の主なモチーフ
時代設定〜電話、蓄音機が富裕層に普及しているくらいの時代
場所〜都市部のマンション(豪邸)とスペイン領カナリア諸島沖海上(夢の中とリアル)
ロイドの役所:貴族なみの使用人(執事、侍従、整備係)を召し抱えるボンボン
主人公のテーマモチーフ:G・ガーシュイン:スワニー(イントロ部分)
ヒロインのモチーフ:G・ガーシュイン:スワニー
メイン歌唱部分女海賊のみなさん:タツノコプロ風、カリプソ
ヒロインのママ、海賊女船長:ハバネラ
囚われた海賊たち:スウィングジャズ
冒頭タイトルロール
もし、これを読んでくださっている方の中で、これから「楽士」演奏をされたい方がいらっしゃったら、「冒頭タイトルロール」は是非、最後につくることをお勧めしたいです。
オペラの序曲には、後からでてくるいろんなテーマ音楽を散りばめて予告編のような役割があると思います。無声映画でも長尺の場合は、「cast」まで、けっこう長いので、いろんな要素を盛り込めるので、限りある時間、優先順位の高い順に入れ込んでいます。
ちなみに、その他の部分も、最初から積み上げていくのではなく、印象的な箇所から埋めていくチャート式思考で粘土細工のように、だんだんと全容が自分でもわかってくると、私は感じていて、とても好きな作業です。
尺にあわせた『豪勇ロイド』の冒頭タイトルロール
1)深い深い森の中のように「恐れ」「不安」「自信のなさ」が渦巻く「超ヘタレ」の世界 ここだけにか登場しない音像
2)マジックアイテムモチーフ
尺にあわせた『ロイドの初恋』の冒頭タイトルロール
1)ロイド自身のオリジナルテーマモチーフ
2)劇中の困った時のジングルモチーフ
3)新婚甘いスウィート
尺にあわせた『ロイドの海賊退治』の冒頭タイトルロール
1)スワニー省略ver.
あとがき
最後までお読みいただきありがとうございます。よかったら、過去の「楽士のつぶやき」もご訪問いただくと、なんと!シンプルな!と1作品ずつ解説をしてくれた方が、読む方には親切って、筆者もわかっているのでは?と、感じられると思います。
そうなんです。ロイドばっかり、3作品続けて音楽をつくり、生演奏をするということは、頭の中はこんな風にごっちゃまぜになるということが伝わればと思い、整理することは叶わないので、脳内の思いをそのままツラツラとキーボードで叩き出しました。
私的な結論としては、今番組は、「ロイドの3作品」ではなく、音楽的、楽士の職人技としては、3作品でロイド自身の魅力をたっぷりと感じていただくための「音楽背景づくり」という意気込みをお客様に感じていただけるような生演奏をしよう!という意気込みです。
私の立場の楽士では、これまで作品を選ばせてもらったことは一度もなく、スケジュールの打診があり、いろいろ調整があって、最後の方に作品がわかる感じなので、自分の好きな作品に挑戦したという経験はいまだにありません。
しかしながら、「仕事」としてオファーをもらったからには、これだけいろいろと工夫や下調べをして取り組ませていただいています。
そして、当日には、画面ぴったり、カツベンぴったりになるべく存在感を決して、ひきたて役に徹して生演奏をする所存です。
暗闇の中で弾きますので、鍵盤もみえずにただただ最前列に設置したシンセの前でスクリーンと弁士の顔を眺めているように見える私ですが、ちゃんと生で演奏中です。ご来場をご予定してくださっている皆様、心を寄せて応援してくださっている皆様、どうぞよろしくお願いいたします。