2022年6月3日 無事に終映いたしました!ご来場、誠にありがとうございます。

左から「よしもと有楽町シアター『活弁でGO!』」でお馴染みのピアニスト上屋安由美さん、カツベン界を牽引、「活動写真弁史」も執筆された片岡一郎弁士….黄金ペアが、カツベン映画祭の大トリです。
中央 「ポチっと発明 ピカちんキット」主役のポチローほか、「ドラえもん」「ポケモン」などの声優活動でもお馴染みの山崎バニラ弁士 私がまだ楽士デビューまもない頃、2017京都国際映画祭などで伴奏をさせていただいていました。
わたし もう自分の出番も終わって、メガネ姿です。
左 今年、大学を卒業したばかりの最年少、尾田直彪弁士。カツベン映画祭初登場、Aプログラムで伴奏をさせていただきました。
楽屋ショット 
左から山崎バニラさん
山崎バニラさんは、私の出演Aプログラムを鑑賞してくださり、暖かい感想をブログに掲載してくださっています。私もバニラさんのプログラムを拝見して、感銘をうけました!
中央 Cプログラムご出演の三味線奏者 宮澤やすみさん
と、楽士服を脱いで、いつものメガネのまり先生になった私

崎バニラさんのブログ 御礼 第二回カツベン映画祭

上映前のキーボードの音色確認風景 今年もソーシャルディスタンスのため、前2列はノーセールスでした。
私がなんで、梱包材をもっているか?というと、出番を終えて、ホテルに戻ってキーボードを配送用に梱包するためです。前配送もする時には、キーボードはハードケースにいれて、事前事後とも配送をするのですが、今回は、新宿で近いので前日に背負って搬入して、演奏後の筋肉痛で帰路のみ配送にしました。ハードケースよりも、梱包材の方が、サイズが小さいので安いですよ!安全は、自己責任ですけど。
遠くからかけつてけくれた友人たちと映画祭の看板前で記念撮影。演奏に使用したキーボードを背負っています。
友人たちと打ち上げ 国立音楽大学附属高校普通科の同級生たちです。

=音楽についての解説=

楽士の演奏にご興味のある方向けに、クラシック曲演奏モチーフとその年代の音的な特徴を醸し出しているポイントなどを予習としてこちらに掲載させていただきます。

クラシックモチーフ(著作権はパブリックドメイン)以外は、自分で作曲したオリジナルモチーフですが、時代背景に忠実に、スタイルを保持しています。

今回のプログラムの音風景を一言を表すと「古き良きアメリカの喜劇」とそのエッセンスをうまく吸収して日本発信している「粋」なスタイルだと思っています。

【ドタバタ喜劇の音楽ルールについて】

バスター・キートンのドタバタ喜劇の「キートンの鍛冶屋」がプログラムの最後なのですが、ここでは「ドタバタ喜劇」の定型のドリフの「8時だよ!全員集合!」でいうところの場面転換時にかかるブラスアンサンブルのアップテンポの曲のような「お約束」のパターンが何回もでてきます。この「お約束パターン」というのが喜劇ではとても大切だと私は思っていて、「ドタバタ」を安心して見ていただけて、ドタバタというファンタジーなので、本当に怪我をしたりとか死にはいたらないとルール、セオリーにのっとっての「お笑い」です。世代によっては、この「お笑い」ルールを、小突かれて可哀想という気持ちから受け入れられない人もいるので、音楽はそれカバーする面でも喜劇ではとても重要だと思っています。音楽ルールとしては、喜劇っぽい音楽(ディズニーランドのBGM、1920年代のアメリカの雰囲気)がでてくると、あぁ、ここがその「ドタバタ喜劇」なんだなぁとわかります。あまりストーリーに関係なく、こづいたりキックがでてくるのがこの時代の喜劇の特徴です。

【1920年代のアメリカ音楽】

カツベン映画祭で、初めて私の演奏を聞いた方は、私が「ラグタイム」「ブギウギ」「フォックストロット 」「ジャイブ」などの禁酒法時代のアメリカ音楽の演奏を専門にしていると思われるかもしれませんが、実はこれらの音楽は、ここ3年くらいで必死に取得したスキルです。(『クレオパトラ』や『戦艦ポチョムキン』など歴史的な作品ではクラシック音楽モチーフ、和物でチャンバラではそれっぽくなど作品によって演奏ジャンルはガラリと変わります。)

私は、2020,2021,2022と連続で「ニコニコ大会」という喜劇だけを集めて3~4プログラム続けて上映するイベントに出演させていただくにあたり、同時代のアメリカの同時数本弾けるだけの音楽ストックを自分で表にして異なる作品で重複しないように入念な準備をしています。お客様にとって、数分前にみた作品と同じ音楽モチーフが聴こえてくることで、興が醒めることがないように努力をしています。

今回の「カツベン映画祭」のAプログラムも喜劇、喜劇要素のある作品を3つなので同様に、「ドタバタ」シーンで使いたくなるような早い駆け足、脱走テンポの音楽や、すっとぼけのスライドピアノ(ラグタイムで左手がぶんちゃぶんちゃとなる音楽)は、どの作品でも絶対に出てくるので、曲のイメージをカラーチャート表に色分けしたカラフルな表をつくって、モチーフの重複を避けています。

【ピアノ製作所に勤めていた内田吐夢】

今回のプログラムには、前の2作品がともに内田吐夢監督の作品です。吐夢というのは、「トム」と読みます。若い頃にやんちゃをしていたころの通り名だったそうです。私が伴奏を担当した作品としては、『天国その日帰り』、そして俳優として出演した作品は、『楠公父子』の伴奏を担当させてもらったことがあります。内田吐夢は、横浜のピアノ製作所に勤めていたことがあるそうで、私の少ない邦画の経験の中では、かなり「西洋音楽」に明るい方、そして、西洋音楽の中の「リズムとテンポ」の関係に敏感な方なのではないかと感じています。ご存知の方も多いと思うのですが、私の専門は「リトミック」で、「リズムとテンポ」「時間と空間」「音楽の視覚化」など、演奏のみの音楽スキルとはちょっと切り口と角度が異なることもある世界なのですが、そんな目から「内田作品」を分析すると、映画を撮影時に流していたかもしれない音楽のBPMがはっきり感じ取れるし、しかもそのBPMの小節の切れ目の四拍目など、ちょうど切れ目の良いところでカット、場面転換がおきます。これは、楽士にとってとてもありがたいことです。(余談ですが、『イントレランス 』という作品は、私が担当したのは114分の短縮版で、カット場面がたくさんあるため、BPMの調節だけではなく、変拍子にしたりして、なんとか場面ごとにスイッチできるようにと難儀しました。)

内田監督が、BGMを流しながらカメラを回したかはわかりませんが、少なくともご自身のマインドとして、一定のテンポで音楽が脳内再生できるようなテンポキープ力はあった方だと推察できます。今回の2作品の私の伴奏が、そんなフレーズと音楽がぴったり!という感じに当日も無事に成功できたら嬉しいです。

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【各作品の演奏モチーフについて】

キートンの鍛冶屋 The Blacksmith  1922年 米・キートンプロ作品 19分監督/バスター・キートン=

■Mozart, The Marriage of Figaro,恋とはどんなものかしら?Voi che sapete:仕事には「お客様との時間」と「自分のペースでできるひとり仕事」の2種類があると思っていて、キートンの鍛冶屋さんも、まさにその2つをうまく切り分けているな、と思いました。このモチーフがでてくる時は、ひとりでマイペースにその日のノルマ作業に没頭できる幸せ度、職人気質が現れています。私にとっては、シェケレを編んだり、楽器のメンテナンスをしている時の気持ちとして共感できます。

■Mozart, The Marriage of Figaro,Overture(序曲):キートンが鍛冶屋職人モード時のドキドキ感、これから何かがはじまる時の序曲として使用しています。

■Radetzky March:白いお馬さんの気持ちパート1:私がキートンが大好きな理由のひとつは、動物たちの気持ちの汲み取り方なのですが、登場する「白いお馬さん」(多分きっと女の子)の心理表現にキュンキュンしています。この曲は、白いお馬さんと一心同体のパートナーのお嬢様との連携している場面で使用しています。白いお馬さんとしてのビジネス面の表情が、ちゃんと演技として感じとれています。

■コッペリア スワニルダのワルツ:白いお馬さんの気持ちパート2:白いお馬さんが、ビジネスの面がとれて突如、女の子になっちゃうパートです。盲導犬がお仕事中の時と、おうちでワンコちゃんになっている時が違うとテレビで見たことがあるのですが、そんなような感じで白いお馬さんが、「女の子」になってしまったような演技でした。お馬さんの表情で、「えっ?いいの?」って言っているような顔のところから、この曲がスタートします。お見逃しなく!

■サティ Je te veux:白いお馬さんの気持ちパート3 :なんて幸せな場面なんでしょう!白いお馬さんは、キートンの最高級の蹄鉄を打ってもらっただけではなくて、お化粧の白粉やブラッシングもしてもらえて昇天!って感じで目を細めています。

■クルト・ワイル三文オペラDie Dreigroschenoper:白いお馬さんの気持ち4:もはやお馬さんのキートンを見守る目線は、恋人、古女房を通り越して、「母」目線になっていて、キートンの繰り広げる様々なやんちゃを目こぼしをしています。

■ビゼー カルメン Habanera:アナザー女性キャラクター(ヒール)のテーマ、時折Funiculì funiculàが、挿入されています。

■ブラームス ハンガリー舞曲:アクションにリアル即時反応で対応しているため、もうブラームスに謝れ!といわれてしまうくらい崩れています。でも、この曲、ドキドキ、ドタバタにアレンジしやすくて多用してしまっています。

■磁石に吸い付く金属音の考察:すべて手動で音だしをします。

作業工程として、まずはそれらの金属が磁石に吸い付く音をオノマトペ化してみます。
金槌大 ダン!
金槌小 キン!
バッチ テン!
ピストル えっ!

説明担当の山城弁士との同志のやりとりの中で、
「この作品は、弁士と楽士の職人技の追求だよね!」
というのを心の応援歌にして、地道な作業を継続することができました。

漕艇王 1927(昭和2)年 日活大将軍新劇部作品 23分 監督/内田吐夢=

My Blue Heaven:作曲者ウォルター・ドナルドソンが1947没なので、パブリックドメインとして、当時の流行曲を嗜む「モダンガール」的な女主人公のメインテーマとして使用しています。

■他レース曲などは、「戦艦ポチョムキン」担当時に自作したモチーフを重複使用しています。

■メインカップルの二人とお邪魔虫ひとりのボート漕ぎデートの場面では、ハープと室内楽弦楽器の混音色をつくりました。ハープで水面の反映がキラキラしてみえると思います。以前、「愚かなる妻」で、貴族の湖遊びシーンでハンマーダルシマーと室内楽を混ぜてイタリア民謡っぽくしたのが好評だったので、今回は短いシーンですが、「水面」命で演奏しています。

■オーケストラ音色時に、今回は「マーラー」っぽい要素を入れています。時代的にもそうなのですが、何がマーラーっぽくするのかって、音数の多さです。(和声進行も)当社比ですが、十本指全部の音でオケの和音を構成すると、「ミシェル・ルグラン」っぽくなります。

虚栄は地獄 1925(大正14)年 アサヒピクチャー作品 15分 監督/内田吐夢=

■Hava Nagila イスラエル民謡 クレズマー音楽 主人公が思い悩む時 前後の調性で、場面ごとに何調で弾いたかわかんないくらい転調をして弾いています。耳の良い人にとっては、「さっきE調だったのに?なんで転調?」って、気持ち悪いかもです。すみません!

■ワーグナー ワルキューレの騎行(Die Walküre):主人公が死にたくなる時

■シューベルト セレナーデ:主人公が切なくなるとき
■Death of Aase from Peer Gynt:夫婦感の重い沈黙

■サラサーテ『ツィゴイネルワイゼン』Zigeunerweisen:予期せぬバッタリ!致命的なダメージ

この映画をつくるきっかけとなったのが、新聞の投書だったということで、音楽のデザインをいろんな教養を盛り込んだセンスでまとめてみることにしました。喜劇ならではのドタバタはあるのだけれど、どこか一線をひいていて、メタ目線というか、見る人の視点が遠くて高見の見物っぽくするために、オーケストラ音色は、6つの音色、またはそれの配合でセットアップしています。ピッチカートの音色のところは、わかりやすいと思うのですが、バスにごとごとゆられている映像と、同タイムコードになるように弾いているので、ほんとにバスが動いているように見えるはずです。

同じ鍵盤楽器ですが、ピアノタッチのとき、オルガンタッチのとき、アコーディオンの弾き方の物マネなど、それぞれの鍵盤上の指のはわせかたは、異なります。

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たくさんの準備、そして稽古を積み重ねております。

朝1番のプログラムですが、ご興味のある方は下記サイトにて、前売りチケットをお求めくださいませ。マツダ映画社取り扱いの1日通し券は、すでに完売とのことです。

名 称:
第2回カツベン映画祭(新宿東口映画祭提携企画)

日 時:
2022年6月3日(金)午前10時開演~

会 場:
武蔵野館 〒160-0022 東京都新宿区新宿3-27-10 武蔵野ビル3F

入場料:
全席指定 1プログラム 2,000円

販売方法:
5月20日正午より武蔵野館及び武蔵野館チケットサイトにて販売
※ 先行販売席数限定 通し券6,000円は、マツダ映画社にて取り扱いあり。

協 賛:
武蔵野興業株式会社

協 力:
国立映画アーカイブ

主 催:
株式会社マツダ映画社・カツベン映画祭実行委員会
〒120-0003 東京都足立区東和3-18-4

【上映スケジュール/全6プログラム】

Aプログラム/『虚栄は地獄』、『漕艇王』、『キートンの鍛冶屋』 第二回 カツベン映画祭【新宿東口映画祭2022提携企画】

6/3 10:00の回

¥2,000均一 / 全席指定

【上映作品紹介】

キートンの鍛冶屋 The Blacksmith

1922年 米・キートンプロ作品 19分
監督・脚本/バスター・キートン、マル・セント・クレア
出演/バスター・キートン、ヴァージニア・フォックス

弁士: 山城 秀之
演奏: 坂本真理

漕艇王

1927(昭和2)年 日活大将軍新劇部作品 23分
監督/内田吐夢
出演/広瀬恒美、夏川静江、神戸光

弁士: 山内菜々子
演奏: 坂本真理

虚栄は地獄

1925(大正14)年 アサヒピクチャー作品 15分
監督/内田吐夢
出演/龍田静江、長谷川清

弁士: 尾田 直彪
演奏: 坂本真理