令和6年度第22回任井田地域づくり事業
『無声映画上映会 すまいる座~みんなで感笑』

昨冬に引き続き、参加させていただくことになり、大変光栄です。

前回の概要記事 令和5年度第21回任井田地域づくり事業『無声映画上映会 すまいる座~みんなで感じて笑いましょう』~ 楽士のつぶやき


そして、昨年も地元の中学生ボランティアの皆さん、仁井田コミュニティセンター兼仁井田市民サービスセンターの皆さんをはじめとした温かいスタッフの皆様の手厚いおもてなしを頂戴いたしました。

前回のたのしい思い出記事 令和5年度第21回任井田地域づくり事業『無声映画上映会 すまいる座~みんなで感じて笑いましょう』~ 満員御礼楽士のいちにち

温かいスタッフの皆様との再会も嬉しく、出演の準備を進めているところです。
また、これからはじめてご来場されるみなさま、はじめまして!
無声映画楽士の坂本真理と申します。

無声映画は映画上映だけではなく、活動写真弁士が自ら執筆した台本を説明し、時には声色を変えて複数の人物の描写をライブで行います。また、今回のように、生演奏が添えられることもあり、その演奏を担当する人のことは、その人の専門性や立場にもよるのですが、私は2016年のデビュー以来、「楽士」という肩書きで主に、弁士さんの伴奏をさせていただくことを中心に活動をしています。

2016年のデビュー以来、のべ134作品の無声映画の伴奏をさせていただきました。担当作品のアーカイブ むらさきmusicラボホームページ

むらさきmusicラボ

活動写真弁士さんの数は、大きく言えば全国に20名ほどと言われる説もありますが、専業としてご活躍されている方はどのくらいなのでしょう?そして、楽士など音楽面の担当者も(呼称もお立場によってピアニストなど様々)も専業とされている方もいらっしゃいますが、私は年に数度の本番にむけて、毎晩、本業の仕事終わりにじっくりと時間をかけて下調べや稽古を積み重ねていくという贅沢な向き合い方をさせていただいています。

簡単に自己紹介をさせていただくと、国立音楽大学(リトミック専攻)卒業後、幼稚園でリトミックの先生→園長を長く務め、2016年の幼稚園閉園を機に「むらさきmusicラボ」を設立しいろんな活動をしています。YouTubeなど、いろいろありますのでリトミックや楽器など興味があるところでご覧くださいませ。また、小学館「図鑑NEO 音楽」では、21種について関わらせていただきました。

それでは、さっそく今回のイベント概要をご紹介いたします。

イベント概要

第22回仁井田地域づくり事業 無声映画上映会「すまいる座」

令和6年12月15日(日曜日)
午後2時 から 午後4時 まで 開場:午後1時
須賀川市文化センター 大ホール
文化センター

上映作品(4作品)

  • 海の水はなぜからい(10分)・・・東北地方に伝わる民話をもとにしたお話〈子ども向け〉

  • 野狐三次(14分)・・・円谷英二監督・カメラマン時代の作品〈時代劇〉

  • 雷電(18分)・・・仁井田といえば相撲〈相撲にまつわる喜劇調の時代劇〉

  • 豪勇ロイド(49分)・・・三大喜劇王の一人、ハロルド・ロイドの名作〈大人も子どもも!幅広い世代で楽しめる〉

  • 大人 前売り券1,000円 当日券 1,200円

  • 子ども(小・中学生) 前売り・当日共通券 500円
    注:未就学児は無料

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楽士のつぶやき 今回の聴きどころ

第1部はみやこ音階

今回は、私自身も本当に楽しみにしていることもあるのですが、そこは当日までのお楽しみにとっておいて、大きなくくりでいうと、1部(日本の映画)山城秀之弁士のご担当と2部のアメリカ映画「豪遊ロイド」澤登翠先生のご担当に分かれています。音楽的には、日本の映画に添える音楽は、和風でレトロに「みやこ音階」、2部は、クラシック音楽、ポップスなど耳馴染みのある洋楽の音階を使用した世界観にしてみました。

みやこ音階(都節音階)は、西洋音楽階名のミ・ファ・ラ・シ・ドの5つの音からなる五音音階です

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1部は、全編シンセサイザーで演奏するので、普通にドレミファソラシドが揃っている鍵盤から、特定の音を抜いたメロディで演奏をしています。私は、ほとんど即興演奏なので、時々、うっかり入ってはいけない音階の音が稽古中には入ってしまうことがあります。本番は気を引き締めて慎重にやっていきたいと思います。

このような苦労を自分で経験してみると、やはり日本の心「演歌」はすごい発明だな〜と思うのです。邦楽は、もともとは五線譜では表せないものですが、それが西洋音楽とうまくミックスすることで、「心に染み入る」旋律となる。なかなか難しいですが、3つの作品、ところどころに、そのような音のデザインが入っています。もともと西洋音階のために作られた楽器、とくに鍵盤楽器で和風の旋律を奏でることは、ちょっと大変!ということを覚えておいていただくと「演歌」や「時代劇」のBGMが耳に入ったときに「おっ!」と思っていただけるかもしれませんね!

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使用機種 ローランド JUNODS-61

シンセサイザーの音色

こちらは、今回使用するシンセの音色です。ご家庭によくある電子ピアノにも、オルガンなど様々な音色が変えられる機能があるものがありますね。また、お手軽価格で購入可能なキーボードと呼ばれる人気キャラクターの曲がインプットされているものもあります。シンセサイザーの定義は、音を組み合わせて音色をつくることができる機能を持ったものということで、私は、右手と左手に異なる音色を組み和合わせて、フェイバリットボタンで呼び出す機能をよく使っています。この機種は学生さんがバイトして買えるくらいの価格帯(7万円くらい)なので、レッスンに使ったり、レンタルで貸し出したりもしている使い方ができる機種として有効に使っています。無声映画の公演をご覧になったお客様で、「同じような演奏をしてみたい」と体験レッスンにきてくださる方もいるので、このように、音色の番号もわかりやすくラベルに記しています。「ローランドJUNO」シリーズは、大きな楽器店では、必ず店頭で試奏もできるフラッグシップモデルなので、興味のある方は上の表の「箏 world165」という番号をメモしておくと、簡単に呼び出せる仕組みになっています。店頭で試奏をする時には、お店の方に一言かけてくださいね!

各作品の音楽裏話

『海の水はなぜからい』

本作は、番組内で唯一のアニメ作品ですね。
『海の水はなぜからい』 では、1部内では唯一西洋音楽音階、ノルウェー作曲家 グリーグの代表作『ペールギュント』から「朝」をモチーフに使用していますが、シンセの音色は、和楽器が中心です。
しかし、魔法や不思議世界の要素が強くなるにつれて、バリ島のガムランのリズムや、アニメの世界のような音色も登場します。ここでは、私の手作り音効楽器も登場予定です。その他、シークレット演出も含めてお楽しみに!

『野狐三次』

『野狐三次』は、江戸の町火消の話なのですが、ご存知の方も多いと思うのですが、江戸時代の消火方法は、火がこれ以上広がらないように、まわりの家を取り壊してしまったそう。作中で、三次がユニフォームを着ていないために火消しに参加できない件がありますが、江戸城下には1町あたり30人の火消がおり、「いろは四十八組」とよばれる消防隊は隅田川以西を担当し、深川は別の16組が担当ということでナワバリ争いもあり、ユニフォームも支給されたもので区別をしていたということからだと思われます。

火事の現場で火を消すことのほかに、家を壊されたりなわばり争いもあって、なかなかドラマチックで驚くばかりです。

シンセの音色では、和太鼓をたくさん使用しています。また、箏、尺八、三味線といった和楽器の音色のほか、「トランペット&アコースティックギター」といった「遠山の金さん」的な音像、「クラリネットとオケ」は、「てなもんや三度笠」の雰囲気も醸し出しました。娯楽作品として、ご年配の方を含めスカッと楽しんでいただけるように、様々な作品を参考研究しました。当日は、私もホールの大画面をみながら、山城弁士の啖呵にぴったりと合いの手を浪曲の曲師の手法をリスペクト演奏する心つもりです。

『雷電』

ストーリーは有名な雷電爲右エ門のお話です。私の音楽教室(むらさきmusicラボ)のこどもたちも、このお話は大好き!というのも、「そうなんだ!」というこどもむけの大図鑑にも、雷電のことは記載されている!とこどもたちから聞いて知りました。ラボでは今、土俵と軍配をおいて、私のイメージトレーニングにも協力してもらっています。

相撲といえば、「太鼓」があるので、YouTubeで名人の方の演奏を参考に、ここでは、「二番太鼓」と「跳ね太鼓」を耳コピしてシンセで演奏をしています。弁士の山城さんと相談もしつつ、なるべく違和感のない感じに演奏と思っているのですが、私は音大までは西洋音楽、卒業してからは、ブラジルやアフリカのパーカッションに没頭していたために、このような様式の「拍子がない」演奏がとても難しいし、挑戦しがいがあると思っています。

無声映画の楽士は、このように専門から遠い分野の音作りで苦労をすることもありますが、反対に、ごくたまにですが私の得意な民族音楽が登場するシーンに出会うこともあります。得意不得意などは、映像に見入っていらっしゃるお客様には関係のないところなので、違和感のないように、映画を支える演奏をがんばりたいと思っているところです。

『豪勇ロイド』最長版

得意、不得意でいえば、このような「スラップスティック」と呼ばれる「ドタバタ喜劇」のずっこけ音、モノが落下してくるような音を映像と同期させて音を出す「SE」(効果音)や、1920年のアメリカ音楽に欠かせない「スライドピアノ奏法」は、デビュー以来、かなりの頻度で担当させていただいています。
そして、昨年に引き続き、今年もホールのピアノをチャップリン、キートン、ロイドなどの時代の演奏にぴったりな440(ユニバーサルピッチ)のピアノ調律でお届けできることになりました。

ピアノのチューニングについては、以前のnoteに詳しく記させていただいています。

私は、楽器製作や、プロパーカッショニストの楽器のチューニングの仕事もさせていただいていて、チューニングに対して、ミュージシャンの気持ちや、プロデューサーの指針など、さまざまな意見を拝聴してきています。そんななか、今回のように、演奏者が私ひとりであること、会場が大規模ホールで、充分な対応が可能なことから、今年も安心して時代にマッチした国際標準のユニバーサルピッチでの演奏が叶うことになりました。本当に感謝をしています。

また、スライドピアノ奏法は、耳で聴くと、手が3本あるような演奏をするために、左手を2本分、細かく動かす必要があるので、鍵盤の軽さもとても大事です。
私の仕事場には、YAMAHA G7(コンサートピアノ)があるので、低音弦がまっすぐ張られているピアノで、毎日の稽古もしています。(学校の体育館にあるピアノは、Cサイズのことが多いので、低音の弦は曲げて工夫して張る)

ピアノの生演奏を聴く機会は、多種多様にあると思うのですが、音楽を長年教えてきた教師としては、電子ピアノではない、生のグランドピアノで、しかも、低音の弦がまっすぐなコンサートグランドピアノの特色を、今回も存分にお客様に味わっていただきたいと思っています。

ひとことで言えば「倍音」
なのですが、音が振動で生まれることが感じられる要素としては、大きなホールそのものが、音響を響かさせてくれる大きな楽器とも言えると思います。

ピアノを習っている方、演奏をされる方は、音を間違えないように、止まらないようになど留意をされていると思います。でも、ミスのないような演奏は、コンピューターに打ちこんだデータでも可能なのですが、音を自分の身体を使って空間に響かせる「生の楽器による生演奏」で重要なのは、「響き」や「音色」「表情」などより、肉感的なものがあげられると思います。

今は、スマホやスピーカーから、MP3など圧縮されたデータの音楽を聴く機会も多いですし、TikTok ティックトックなど、動画に添えられている音楽はどれも1分ほどです。「豪勇ロイド」は、約50分ですので、50分間、演奏しっぱなし、つまり50分間の音楽作品ともいえるかもしれません。毎晩、稽古をしつつ、50分間という時間を身体に刻み込んでいるところです。

挿入クラシック名曲 曲名紹介

無声映画は、だいたい1920年を中心とした時代なのですが、その時代の音楽はだいたい使えるという訳にもいきません。というのは、著作権の保護期間は、その作曲者が亡くなってから70年間なので、長生きをされている方だと、まだ保護期間ということもあるので、すでにパブリックドメイン(保護期間が終了している)になっているクラシックの名曲も多くモチーフとして、使用させていただいています。モチーフというのは、メロディの一部のことで、それを映画の尺にあわせて、ぴったりに収まるようにアレンジして使用させていただいています。

そのほか、実際に聴いていただいて、「あれっ?この曲、どこかで聴いたことあるかな?」というような曲もあるかもしれませんが、その場合は、調性、テンポ、音色などを似た感じにお借りして、メロディは変えてオリジナルにしています。著作の管理をしている有名なJASRACの査定にひっかからないように、最新の注意を払って楽曲構成をしています。

それでは、当日は即興演奏なのですが、一応登場する予定のクラシック曲名をご紹介したいと思います。いつも、演奏が終わると一番、お問合せが多いのが「曲名」なので、こちらにてご紹介させていただきますね。

『海の水はなぜからい』

「ペール・ギュントから朝」/グリーク

『豪勇ロイド』

「大学祝典序曲」/ブラームス…赤ちゃん時代
「ワルキューレの騎行/ワーグナー….ライバルのテーマ
「ハンガリー舞曲」/ブラームス…大事件の件 2回ほど登場します。
「小人の行進」/グリーク…自警団登場
「ディキシー」南北戦争時に南軍が愛唱した曲…おじいさんの回想シーン
「天国と地獄」/オッフェンバック…馬に乗っての競争のようなシーン
「剣闘士の入場」/ユリウス・フチーク(死去は1916年)
「ボレロ」/ラヴェル….二人の乱闘シーンクライマックス

1920年代あたりのリズム(豪勇ロイド) 紹介

ラグタイム:右手は、シンコペーションを強調したメロディ。左手は、マーチのようなリズムのズレのない伴奏系をオクターブをスライドさせて演奏する。…本作では、主人公の通常運転モードの平常心を表す感じで登場しています。
チャールストン:1920年代にアメリカを風靡した片足を交互に跳ね上げるようなダンスの音楽。ご機嫌な感じ。….本作では、主にライバルとのちょっとした衝突シーン、シニカルな事件で登場します。
スウィング:大編成のビックバンドでリズムを揺らす(スウィング)させるような豪快なリズム….本作では、大逃亡のようなシーンで取り入れています。

1920年代らしい音楽としては、このほか「ブギウギ」や「ブルース」などもあげられるのですが、今作では登場していません。その理由は、二つあって、それらは、「黒人由来」のリズムなのですが、今作の主人公は、内気で臆病者なので、ちょっと違うかな〜と感じたこと。そして、本作のネタ下ろしが、『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』で、同時代、喜劇、同一主演という縛りがあったので、作品によって、使うリズムを限定していたこともあります。

『ロイド!ロイド!! ロイド!!!』では、シンセサイザーで、ピアノ音色も「本キートンク」「JDピアノ」など、いくつかの音色を変えて演奏をしていましたが、今回は、コンサートグランドピアノの良さを充分に活かして、画面上でオルガンなど指定があるものや、唯一のカーチェイスシーンは、アコーディオンでスピーティにして変化のあるアレンジを表現したりと、全体のバランスを塾考していきました。

さてさてお楽しみ予告

当日のお楽しみもあるので、詳細は控えますが、今回は普段、私が何気なく使っていたり、自作したりしている「音効楽器」(SE,サウンドエフェクト)について、誰かに伝えることについていろいろ考える機会をいただきました。

音には、メロディやコードを奏でる音階をもつ「楽音」のほか、川の流れ、風の音など環境音楽に用いられるような自然音をなんとか工夫をした楽器で演奏をする方法もあります。動画は、naná vasconcelos(ブラジル 故人)でサウンドスケープ(音楽による音の情景の表現)の名手の演奏です。

この動画にある楽器たちは、ラボにも所蔵していますし、カシシやラットルは、お子様向けのワークショップにて、各所で作り方も指導する機会を設けていただいています。

わたしのYouTubeチャンネル

楽器というと、教室に習いにいく。そして、次のレッスンまでに宿題として、たくさん練習をするノルマを持つようなイメージがあるかと思います。私のラボは、教室というよりも、「音楽のお城」をイメージして、訪れる人たちが、それぞれ自由に所蔵している楽器を選んでセッションをするような時間を大切にしています。こどもの頃のレッスンに挫折をしたけれど、いろんな楽器に触ってみたいと思い立つ大人の方々、東京のはずれのラボまで、新幹線などを利用してかなり遠方からも定期的に通われている方もいます。

音楽の本質は、「習う」ことよりも、自分で音を発見したり工夫したりすることなんじゃないかなぁ〜、というのが、長年、リトミックを主軸として音楽教育を継続していた私の感覚です。

今回の公演では、そんな気持ちの片鱗が、もしかしたら見えてくるかもしれません。いろんな音の響きが気になったら、ブラジルやアフリカ、世界の民族楽器を検索して見聞を広めていただけたら嬉しいです。

そして、🙏!
小学館図鑑NEO音楽
書店でお手にとっていただけましたら、巻末ページの坂本真理をみつけてくださいね。ご購入されると、私の打楽器演奏もQRコードでお聴きいただけます。

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それでは、どうぞ、よろしくおねがいいたします。